【千銃士】笑わないマスターとfleur-de-lis.
第2章 罪と罰の澱の中で
「ようベッシィ坊や」
同じテーブルで食べていたタバティエールの言葉に俺はぶっとスープを吐いた。
見れば落ち着いたらしいベスくんが夕飯のトレイを持ってこちらを見ている。
先程まで一人でいるのはつまらないからとタバティエール達と話していてベスくんを衛生室に運んだ話もしてしまったのだ。
あわわわわ。
スープの鉢を置きながらベスくんに手を振る。
「ボンソワベッシィ」
謝ったりしたら余計こじれそうだからタバティエールの冗談に乗る。
「誰がベッシィ坊やだ。どちらかといえば、こっちが目上だぞ」
ベスくんが努めて冷静に云う。
でも目元が赤い。泣いてたからなぁ。
「見た目の話だよねー。あの小枝みたいなシャルルに締め落とされたんだって?」
タバティエールが食後の茶を嗜みながら云う。
質の良い紅茶なんか手に入らないからちょっと何だか分からない薬草を煮出した茶だ。
ベスくん的にはコーヒーが出てこないだけマシって感じだろう。
彼はコーヒーが口に合わないらしい。
多分酒もシェリーだとかビターを好むんじゃないかな。まあ飲まないから分からないけど。
「シャルル」
ベスくんが俺の隣に座りながら名前を呼ぶ。
真冬のアルプスより寒い声だ。
タバティエール達が他人事でケラケラ笑っている。
「なぁに、ベッシィ」
カタカタ鳴る歯。どうやら俺は震えているらしい。
が、ベスくんはため息をつき、そっと俺に体を寄せてくる。
んー?
「サンク、ロッタ」
ひっ。
ベスくんの言葉に俺は固まる。
え?なんて?サンク(ありがとう)?
ろ、ロッタ(シャルロット)?
冗談をくんだ上で礼まで言われてしまい何とも座りが悪い。
「ど、ど、いたしまして、ベッシィ」
今度は何も答えずベスくんはいただきます、と手を合わせご飯を食べだした。
お、お腹が、痛い……。
※シャルロット=シャルル。
シャルルの女性名。