第4章 天泣
【智】
どうやって家に帰ってきたのか…
よく、覚えていない。
『松潤には食べさせてやったけど』
健くんの言葉が、頭にこびりついて離れない。
嘘、だよね…?
ただの冗談でしょ?
健くん、昔から冗談言うのが好きだから…
何度も、否定した。
違う、そんなはず、ない。
だって潤は俺のこと愛してる。
その気持ちに嘘なんかない。
わかってる。
信じてる。
信じて…
『ねぇ、潤…』
『なに?大野さん』
『…なんで、俺と目を合わせてくんないの?』
なんか、疚しいことでもあるの…?
「…っ…!」
息が詰まりそうになって、慌てて大きく深呼吸をした。
嘘…
嘘だっ…
『智を愛してるよ…』
なにが
嘘なの…?
静寂を切り裂くように、携帯が震えて。
俺は恐る恐るそれを手に取った。
『今からそっち、行きます』
無機質に事実だけを伝える文字をジッと見つめ、俺は返信せずに携帯を床に置いた。
どうしよう?
どうしたらいい?
会いたい…
会って、そんなの健くんの冗談に決まってるだろって笑い飛ばして欲しい。
いや、真面目な潤のことだから、怒るかも。
そんなの、信じんのかって。
怒ってもいい。
ふて腐れてもいい。
嘘だって
そう言ってくれるだけで
でも…
もしも本当だったら…?
やだ…
会いたくない…
来ないで…潤…
心の中で願っても、届くわけなんかない
“ガチャン”
玄関の開く音がして。
続いて聞こえる、バタバタと廊下を走る音。
…嫌だ…
来ないでっ…
「智っ…」
潤の声が聞こえた瞬間、俺は床を見つめながら唇を噛み締めた。