第1章 風花
「ごめんなさいっ!」
部屋に入ると、直ぐさま土下座して謝った。
「…痕、つけるなって言ったよな?」
ニノの声は、地を這うように低い。
やべぇ…
めちゃめちゃ怒ってる…
「2度とやらせねぇぞ」
「そ、それは困る!」
「だったら…」
「ごめんなさい!2度とやりません!」
床に頭を擦りつけて謝ると、頭の上に大きなため息が落ちてきた。
「…今度から、気を付けてよね…」
声のトーンがいつものニノに戻ったのがわかって。
俺は顔を上げて、ガバッと抱きついた。
「ちょ、やめろって!」
「なんで?いいじゃん」
「翔ちゃん、いるからっ…」
腕の中で藻掻くニノの台詞に、ハッとして向かい側を見る。
翔ちゃんが、苦笑いしながら俺たちを見てた。
「本当、仲良しだよな~おまえたち」
小さな笑い声と共に、そう言われて。
俺はニノを抱き締めたまま、頷く。
「うん。だって仲良しだもんね~」
言いながら、赤い痕をつけた部分をシャツの上からなぞると、ピクンと微かに震えた。
上目遣いに睨んできたけど、その瞳はもう潤んでて。
ふふっ、可愛い♪
「…羨ましいな…」
どこか寂しげな声が、ぽつんと落ちる。
視線を翔ちゃんに戻すと、瞳にどこか暗い影を落として、ビールのグラスを口に運んでいた。
「…翔ちゃん、もしかして彼女とうまくいってないの?」
そんな翔ちゃんを見るのが珍しくて、つい訊ねてしまった。
前に2人で飲んだとき、いずれは結婚も考えてるって言ってたのに…
「別に…うまくいってない訳じゃないよ…」
そう言った彼の眼差しは、どこか遠くを見ているようで。
俺は、思わずニノを抱き締める腕を解いた。