第4章 天泣
【智】
「ねぇ、潤」
パソコンに向かう背中にぴたりと張り付くと、ビクンと震えた。
「な、なに?」
動揺を隠そうと、首元に押し当てられた、手のひら。
「…エッチしたい」
いつもは、俺から誘って断る事なんてないのに。
「あ~…ごめん、ちょっと待って。ここだけ、考えちゃいたいから…」
視線は、パソコンのディスプレイから動かない。
「やだ、待てない」
「智…これ終わんないと、明日の打ち合わせ出来ねぇから…」
「…やだ…」
「わがまま言うなよ…」
いつもは、もっとわがまま言えっていうくせに…
「先、ベッド行ってて?終わったら、すぐ行くから」
「…わかった」
どんなに誘っても、潤は動く気配はなくて。
俺は少し低い声を出した。
ちょっと怒ってるよって、そう伝えるために。
だけど、潤はやっぱり動かない。
「もう、寝る」
吐き捨てるように言って、ベッドルームへ向かう。
「え?智!?」
ようやく気が付いたのか、慌てて追いかけてくる気配がしたけど。
俺はドアを閉めて、鍵を掛けた。
「ちょっと、なんで鍵かけんだよ!開けてよ!」
「うるさい。早く仕事しろよ」
何度かドンドンとドアを叩いたけど。
大きく息を吐き出すのが聞こえて、すぐに潤の気配が遠ざかる。
俺はベッドへダイブすると、布団を頭から被った。
最近、潤が変だ
違う…
変、なんじゃない…
前と変わってしまったんだ
前はウザいくらいくっついてきたのに
最近、俺を避けるような仕草をするときがある
目を合わせても、すぐに逸らそうとするし…
それに…
セックスの時、集中してないなって感じることがある
まるで、違う奴のこと、考えてるみたいに…
なんか、あったんだろうか?
他に好きな人ができた?
自分の考えに、ぎゅうっと胸が絞られるように痛んだ。
嫌だ…
そんなの、やだ…
離れていかないで…
潤が離れたら、俺、どうしたらいいの…?
渦巻く不安に押し潰されそうな自分を、俺は子どもみたいに膝を抱えることしか出来なかった。