第4章 天泣
【和也】
ホントは、こんなことするつもりも、
こんな言葉吐くつもりもなかった…
あんまりにもストレートに…
雅紀に伝える気なんか、この瞬間まで、全然なかったのに。
キスマークを指摘したら、
『あんまり勝手なことしてんなよ?』
くらいに釘を刺し、気付いてるからな!っていうアピールくらいで止めとこうかと思ってたんだ…
なのに……
『…嫌だ…別れたくないっ…』
昨日今日の仲じゃない。
こんなことで壊れる俺たちじゃない。
そう言い聞かせて…
雅紀が目を覚ますのを待とう、って…
そう思っていた。
余裕の恋人、演じるつもりでいたし、出来るって思ってた…なのにさ…
お前が、あんまり切なそうな顔するから…
今にも崩れ落ちそうな…
消えてなくなりそうな…
壊れてしまいそうな…
そんな雅紀を見ていたら、思わず抱き締めてた。
抱き締めたらびっくりするくらい震えてて。
何でだよ??
どうして、裏切ってるお前の方がこんなに傷付いてるんだよ…
「…にの…うぐっ…俺…えぐっ…俺っ…」
嗚咽と一緒に出てくる言葉は、もう訳が分からなくて…
どうしてやることも出来ない俺は、
ただ黙って雅紀の背中を摩るだけだった。
「…泣くなよ…雅紀…もう泣くな…」
どうして俺が慰めてて、
泣きたかった涙が、なんで引っ込んだのか?
全くこいつには、こんな時でさえ振り回されるんだから…
俺は、過呼吸の一歩手前の雅紀の背中を摩りながら、ゆっくりソファに座らせた。
雅紀は両手で顔を覆って泣き続けた。
……雅紀…
その涙の訳は、なに?
俺に対する贖罪の涙?…だよな?
『もう二度と浮気なんかしないから、どうか許してください』そう言いたいんだよな!?
それとも…
……俯いて泣く雅紀の、薄茶の髪を見つめながら、
俺は、雅紀の唇が、どんな言葉を紡ぐのか。
知りたくて…
知りたくなかった……