第3章 洒涙雨
【潤】
苦しい……
彼の顔を見ているだけで、辛いんだ。
こんな気持ちも、こんな風になることも初めてで、自分でどうしたらいいのか分からないんだ…
その日の収録は、何とかこなした。
スタッフや、番協で入っていたファンの子達に違和感を感じさせてしまうようなことはなかった。
…なかったはずだと信じてはいるけど…
メンバーには気付かれてしまった。
元々付き合っていることは知らないから、こんな時は知らない顔を通すことが出来る。
メンバーに内緒にしていることが、こんな時に役に立つなんて、皮肉だな…
『話しかけるな』オーラを出し捲り、帰り支度をしている俺を、ニノと相葉くんは遠巻きに見ている。
翔くんは見かねたのか、大野さんに『何かあったの?』と小声で話しかけている。
「なんでもないよ…」
力なく答えている大野さんにイライラは増すばかりだ。
その時、携帯に着信が…
「もしもし、斗真?なに?
…うん…分かった、行くよ…えっ?…あ~…分かった、聞いてみるよ…は~い…」
これから先輩後輩何人か集まって飲むという。
そこに来ないかという誘い…
『嵐の他のメンバーも誘って』
斗真はそう言ったけど、俺は誰にも声を掛けず、そそくさと楽屋を後にした。
斗真には、誘ったけどみんな予定が入っていたって、そう言えばいいや…
大野さんのこと、忘れるくらいに飲んでしまいたい…
酒の力で、考えないで済むなら…
行く前からそんな風に思っていたこと…
それが始めから間違っていたんだ。
あんなことになるなんて……
俺はマネージャーに送ってもらって、斗真が指定した中目黒の居酒屋に向かった。