第1章 風花
ニノと相葉くんは恋人同士だ。
それはごく近い人間しか知らないにしても、公然の事実で、所謂そういう関係になって、3年近くになる。
始めは正直驚いた。
だって男同士だし…今までもずっと一緒にいて、今更と言う気もしないでもないし…
本人たちに言わせると、
まあ、主に相葉くんだけど『機が熟した』んだそうだ。
中学生の頃から、ずっと一緒にいた二人が、恋人同士って…まあ、巷ではよくあることなのかもしれないけど。
こんな狭い嵐の中で…っていうのは、何だか不思議な気もする。
「今日は?千葉だっけ?」
「今日も!なんだよね~…マナブのロケのほとんどが房総とかだし。
あの人は近くて喜んでるけど…この間なんか、帰りにおじいちゃん家に寄って来たって、干物、山ほど貰って来たんだよ~!
もう~、そんなに誰が食べるんだよ?って喧嘩になったくらいだし…」
喧嘩したと話ながらも、ニノの口元は優しく笑っていて。
相葉くんのことが大好きなんだと、そう顔に書いてあるようだ。
……羨ましい、って訳でもないけど。
なんだか、胸の奥に黒い雲が小さな渦を作っていくみたいな気がして…
「翔ちゃんは?…そういう人いるんでしょ~?」
悪戯っぽいキラキラした目で、ニノが俺を覗き込んだ。
……俺は…
俺の話は……
「俺のことは、いいんだよ…」
サッと目を反らせた俺の横顔を、ニノは黙って見つめていた。
「セットチェンジ完了しました~!お願いしま~す」
スタッフが呼びに来て、俺達は撮影に戻った。
笑顔でスタジオに入る俺は、なんだか分からない黒い影が、胸の中に少しずつ広がっていくのを感じていた。