第3章 洒涙雨
【智】
翔くんと、なんとなく妙な空気感のまま、その後は当たり障りのない会話をして。
日付が変わる前に、別れた。
いつもの翔くんらしくない物憂げな感じが気になって仕方なかったけど、根掘り葉掘り聞いたところで俺が解決出来るとも思えなかったし。
俺も、潤のこと突っ込んで聞かれても困るし…。
本当は、こんなに隠す必要ないのかも、しれないけど…
大切で、大切過ぎて。
壊したくなくて。
だから、ほんの少しの綻びも作りたくない、なんて…
潤にはこんな気持ち、わかんないよな…
だって、自分でもよくわかんないもん…
俺は深いため息を吐きつつ、部屋のドアを開けた。
中は真っ暗だと思ってたのに、灯りが点いてる。
玄関には無造作に脱ぎ捨てられた、潤の靴。
今日は来ないんじゃなかったの?
俺は慌ててリビングへ向かった。
「…おかえり」
テーブルの上には、ビールの缶が3本と、中身が半分になったウイスキーの瓶。
そして、すっかり目が据わってる潤がいた。
「た、だいま…旬くんと飲んでたんじゃないの?」
「飲んでたよ。でも、旬の奴、子どもが熱出したって奥さんに呼び戻されてさ…」
「そうだったんだ…」
「そっちは…随分楽しそうだったね?」
酒のせいで、若干血走った瞳が、俺を射貫くように捉える。
「別に、楽しくなんて…」
「翔くんと二人きりで、飲んでたんでしょ?」
「たまたまだよ。相葉ちゃんとニノが帰っちゃって、2人残ったから、なんとなく…」
「…いつも、誘われても断るくせに」
声が、一段低くなった。
「だって、潤がいないからっ…」
「俺のせいなの?」
「せいとか、そんなんじゃなくて…」
ダメだ。
今の潤には、なにを話しても無駄だ。
端から、俺の話なんて聞く気がないんだもん。
「もう、いいよ。俺、疲れたし。もう寝る」
そう言って、潤の横を通り過ぎようとした瞬間。
強く、腕を掴まれた。