第3章 洒涙雨
「…今までさ、何人も、付き合って来たけど、こんなに真剣に、ひとりの人を好きだって、思ったのは、初めてでさぁ…」
智くんがポツリポツリと話す言葉に、不思議な説得力と重みを感じる。
きっと、心からの言葉なんだな、って思う。
「良かったじゃん…そんな人に出会えて!」
「出会えて…つ~か…まあ、うん…」
「なんだよ~…その割には歯切れが悪いじゃん」
「…うん…」
智くん…何か悩んでるのかな?
彼女の事で…それとも、何か…別の事?
「智くん…俺でよかったら、相談に乗るよ?
話してみれば、楽になるかもしれないし…」
智くんは、何か考え込む様に俯いて、黙っている…
こんな話、そうそうしたことないからな~
今まで、お互いのプライベートなことには、出来るだけ踏み込まないようにしてきたし…
その時、俺の携帯が鳴った。
俺を見る智くんに、
「松潤だ」
そう言って電話に出てそのままスピーカーにした。
「あ~、松潤?どうした?」
『翔くん?こんな時間にごめんね?明日の打ち合わせの時、…新曲のラップの事、話したいんだ…』
「おっけ。じゃ、俺もパソコン持ってくわ~」
俺と松潤が話しているのを、智くんはじっと聞いていた。
『ごめんね…今、外?』
「うん、居酒屋」
『あ、誰かと一緒だった?』
「うん…でも大丈夫。智くんだし…松潤もなんなら、合流しない?」
『智くん…?大野さんと二人なの?……そっか、邪魔してごめんね…また今度…』
「そう?智くんと話す?」
『いや、いいや…じゃ…』
電話を切り、『だってよ?』っていう顔して智くんを見ると、驚いたような、困ったような、何とも言えない顔して俺の携帯を見つめていた。
……智くん?
話も聞いていたはずなのに、全然入って来なかったし…
「智くん…松潤と、何かあったの?」
何の気なしに聞いた俺に、智くんは慌てて、
「なんで?…ないよ…ある訳ないじゃん…変な翔くん…」
その慌てた素振りに、違和感を感じた。