第3章 洒涙雨
「智くん、この後予定ある?」
「ないよ」
「じゃあ、たまには飲まない?」
珍しく翔くんと二人残っちゃって。
翔くん行きつけのお洒落居酒屋で、サシ飲みすることになった。
「いいとこ知ってんな~。俺、こんなお洒落なとこ、来たことないよ」
通された個室できょろきょろしてると、翔くんが苦笑した。
「そう?松潤のが、よく知ってるんじゃない?」
不意に零れた言葉に、ドキンと心臓が跳ねた。
「あ~、確かに」
なんとか冷静さを保ってそう言ったのに。
「今度、連れて行ってもらえばいいじゃん。あいつ、智くんのこと大好きだから、頼めば速攻連れて行ってくれると思うよ」
続いた言葉に、口に含んだビールを喉に引っ掛けてしまった。
「げほっ…おぇっ…」
「ちょっと大丈夫?」
思いっきり噎せた背中を、向かいに座ってた翔くんが回り込んで擦ってくれる。
「けほっ…ご、ごめ…だい、じょうぶ…」
翔くんはそのまま俺の隣に座り、ゆっくり背中を撫でた。
「なに?そんな動揺するようなこと、言ったっけ?」
面白そうに目を細めながら訊ねるから、俺は慌てて首を横に振った。
「ちがっ…なんか、変なとこ入った…」
誤魔化すと、クスッと小さな笑いを零す。
「なんだ。松潤となんかあんのかと思った」
「ん、んなわけ、ないじゃんっ…」
「だって潤、最近智くんのこと、大好きだからさぁ…」
「そ、そんなことないっしょ!だって、男同士だよ!?」
そうだよな、なんて笑い飛ばしてくれると思ったのに。
翔くんはふと真面目な顔になって。
「そう、だよな…男同士、なんだよな…」
そのアーモンドみたいな大きな瞳を、物憂げに揺らした。
「…翔、くん…?」
そのまま黙り込んでしまった彼に、俺は漠然とした不安を覚えた。