第2章 朧雲
【雅紀】
どうしよう…
出口の見えない迷路に迷い込んだみたいだ。
こんなこといけないって。
ニノを裏切ること、やっちゃいけないってわかってる。
わかってた。
つもりだった。
でも、力強い翔ちゃんの腕に抱き締められて。
意志とは反対に、自分から翔ちゃんを求めていた。
違う…
そうじゃない
俺は自らの意思で、翔ちゃんを求めたんだ。
ニノへの愛が、揺らいでいるわけじゃない。
彼を愛する気持ちは、なにも変わらずここにある。
だけど、それと同時に胸の奥底にしまい込んで鍵を掛けたはずの翔ちゃんへの思いが、あの日を境に濁流のように全身を駆け巡り、俺を押し流していた。
抗えない激しさで。
ニノへの穏やかでくすぐったいような柔らかい愛情と。
翔ちゃんへの激しく身を焦がすような愛情が。
俺の中で鬩ぎ合いながらも共存していて。
どちらも嘘偽りのない、本当の気持ちで…
俺は
これからどうしたら……
「…雅紀、電話鳴ってるよ?」
翔ちゃんの腕の中で微睡んでいると、そう言って揺さぶられた。
目を閉じたまま耳を澄ませば、微かに聞こえる俺の携帯の着信音。
ニノからの、電話だ。
「出なくていいの?仕事の電話かもよ?」
翔ちゃんだってわかってるくせに、わざとそんなことを言ってくる。
ヒドいよ、翔ちゃん…
どんな声で、出ろって言うんだよ…
俺は返事の代わりに、翔ちゃんへ手を伸ばす。
「…ねぇ…もっかい、シよ…?」
目蓋の向こう側で、翔ちゃんが笑った気配がして。
すぐに熱い腕に包まれる。
俺を呼ぶ音は、俺たちの淫らな音に掻き消された。