第2章 朧雲
【雅紀】
『もう、彼女じゃだめなんだ…雅紀が…
雅紀がいいんだ…』
『好きだ…』
翔ちゃんの言葉が、俺の中でこだまする。
ダメなのに…
こんなの、ダメなのに…
頭では分かっていても。
重ねた唇の熱さが。
引き寄せた腕の力強さが。
思考を奪い、溶かしていく…
自ら誘うように唇を開くと、待ってましたとばかりに翔ちゃんの舌が入って来て。
俺はおずおずと舌先を触れさせた。
すぐに強く絡め取られる。
「ん、んっ…」
苦しくて。
身を捩ろうとしたけど、後頭部を片手で押さえられて。
もっと深く、翔ちゃんの火傷しそうに熱い舌が交わってくる。
その熱が、俺の中に燻ってた欲情の火種に移って…
気が付いたら
その背中を強く引き寄せて
自分から翔ちゃんを求めてた
「ん…ふ、ぅっ…しょ…ちゃん…」
もっと…
「…雅紀…」
もっと、欲しい…
「…しょ…ちゃん…」
もっと…
もっと…
もっと、溶かして…
なにも思い出さないように…
長い長いキスをして。
唇を離すと、俺と翔ちゃんを繋ぐ透明な糸が見えた。
すぐに消えてしまう儚いそれは、俺と翔ちゃんを繋ぐ絆の脆さにも似て。
俺は、縋るように翔ちゃんを引き寄せて抱き締める。
「…雅紀、ベッド、行こう…」
子どもをあやすように頭を撫でながら、優しい声で囁かれ。
俺は思考の停止した頭で、頷いた。
手を引かれて、ベッドへと向かう。
ベッド脇までやってくると、翔ちゃんは手を解いて端っこに腰掛けた。
「雅紀…」
夜の闇に覆われた瞳は、真っ直ぐに俺を見つめて。
手が、差し出される。
この手を取ったら、俺は……
一度目を閉じ、大きく息を吐き出して。
俺は、その手を取った。