第1章 風花
「明日は9時に迎えに来ますから!」
マネの叫び声を背に、車を飛び降りて。
合鍵でオートロックを解除すると、エレベーターに飛び乗った。
最上階のニノの部屋へ鍵を差し込むと、もう既に開いていた。
ふふっ、可愛い奴。
緩む頬をそのままに、思いっきりドアを開く。
「ただいまっ!」
靴を揃えるのももどかしく、リビングへと飛び込む。
「うるさ…おかえり」
部屋の中央には、ラグにペタンと座ってコントローラーを持ったままテレビから目を離さずに迎えてくれるニノ。
一直線に駆け寄ると、チラッとも俺を見ないその愛しい塊を、ぎゅっと抱きしめた。
「ちょっ…苦し…なによ、いきなり」
「ごめんな~、寂しい思いをさせて」
抱き締めたまま、いいこいいこするように頭を撫でる。
「やめろ」
口では怒ったような声を出すけど、振り払う気配はなくて。
顔を覗き込んでみると、恥ずかしそうに目元を赤く染めていた。
「ごめんね、遅くなって」
「…別に…仕事、だし…」
ボソボソと言いながら、俺の背中に腕を回してくれる。
「めっちゃ急いで帰ってきたよ?」
「…ん…でも…」
「でも?」
「…無理、すんな…事故でも起こしたら、大変だろ…」
最後の方は、消え入りそうな声だったけど。
耳まで真っ赤にしたニノが、可愛くて仕方なくて。
俺は力いっぱい抱き締める腕に力を籠めた。
「ニノ~、可愛い!」
「ちょっ、苦しいって…!この、力加減バカ男!」