第2章 朧雲
【雅紀】
どう、しよう…
『今夜、俺んちに来て…話があるんだ…』
ぐるぐる、ぐるぐる…
翔ちゃんの言葉が頭ん中を回ってる。
彼女のことを報告するだけ…
そう、言ったけど。
ホントに、それだけ?
だったら、別に家じゃなくてもよくない?
その辺の居酒屋だって…
そう思うのに、言い出せない。
『終わったら、LINEするから…』
終わったら…
終わったら…?
俺…どうしよう…
ずっとそのことばっかり考えてたから、収録に集中なんかできるわけなくて。
なんとか笑顔だけは浮かべて乗り切ったつもりだったけど、いつも一緒にいるメンバーには上の空なのはバレバレだったみたいで…
「いい加減にしろよ!仕事を蔑ろにするんだったら、ニノと別れろっ!」
楽屋に入るなり、松潤に怒鳴られた。
「…ごめん…」
「なにがあったか知らないけどさ!くだらねぇ喧嘩で仕事に支障きたすんじゃねぇよっ!プロ失格だ!」
次々に飛び出す言葉に、返すこともできない。
松潤が怒るのは当然だ。
俺、一番やっちゃいけないことやった。
テレビの向こうで応援してくれる子たちには、俺の心の中なんて関係ないのに…
「…もう、いいでしょ?相葉ちゃんも反省してるみたいだし…。次は大丈夫だよね?ね?相葉ちゃん」
リーダーが柔らかい声で松潤を宥めてくれる。
「うん。ごめん…もう、二度とやんないから…」
膝につくくらいに頭を下げると、松潤はこれ見よがしに大きなため息を吐いて、楽屋を出て行った。
「大丈夫だよ。俺が宥めとくから」
リーダーが俺の肩をポンと叩いて、松潤の後を追いかける。
楽屋には、俺とニノと翔ちゃんが残って。
俺のバッグの中で、携帯のバイブ音が聞こえた。
「相葉くん、あんま気にすんなよ。じゃ、お疲れ」
翔ちゃんが、リーダーと同じように俺の肩を叩いて、出て行った。