第2章 朧雲
【翔】
真っ赤になったニノが、俺の脇をすり抜けて廊下に出て行ってしまった。
智くんがそれを追いかけていって、
楽屋の床に座り込んでいる雅紀は、気不味そうに目を反らせた。
大方強引にニノに迫って、突き飛ばされたんだろう。
俺は、相葉くんに手を差し出した。
全然そんな気じゃなかったのに…
ただ純粋に起こしてあげようとしただけなのに…
相葉くんが俺の手を拒否するから、一瞬カッとなって強引に彼の身体を引き寄せて抱き締めた。
「翔ちゃん…」
驚きと戸惑いを隠せない彼の声に、俺は抱き締める腕に力込めた。
あの日のこと…
相葉くんを抱いたことを、彼女に話した。
案の定、怒り狂った彼女は、俺をなじり、大きな目に涙をいっぱいに溜めて言った。
一回だけなら忘れると…だからもう、二度としないと約束してくれと…
俺は黙って首を振った。
約束できない…
それまでに味わったことのない快楽を感じた、
だから、もうシないとは言いきれない…
『変態///』
彼女の手のひらが、罵声と共に俺の頬で派手な音を立てた。
顔を背けたまま、彼女のとこを見ようと見しない俺を、彼女は汚い言葉で罵ってから部屋を出て行った。
……終わった…
俺が望んだ結末だ。
こうなるために相葉くんを利用することを決めた…
なのに……
胸の奥が、ズクンと鈍く傷んだ。
それが、長く一緒にいた彼女と別れたという現実よりも、そのために相葉くんを利用したということに、自分でも不思議なくらいに胸が痛んでいたんだ。
…俺の描いた、シナリオ通りのはずなのに…
その日から…
相葉くんへの気持ちが、俺の奥で燻り続けていたんだ。
言葉では説明のできない思いが……