第2章 朧雲
【雅紀】
あの日のことは、夢を見たんだと思うことにした。
だって俺が好きなのは、ニノなんだもん。
だけど、ふとした瞬間にあの日の翔ちゃんの姿が脳裏を過ぎって。
それを掻き消すために、自宅には殆ど帰らず、ニノの家に入り浸って、傍にくっついてた。
ニノの気配に包まれていれば、翔ちゃんのこと、思い出さないから…
ニノは「ウザい」なんて悪態吐きながらも、それを許してくれて。
徐々にあの夜のことは、記憶の中へと埋もれていく…
控室のドアを開けると、まだ誰も来ていなくて。
俺は隣にいるニノに気付かれないよう、そっと詰めていた息を吐き出した。
いつもの定位置に座って携帯ゲームを始めた彼の横にくっついて座り、途中のコンビニで買ってきた週刊誌を広げる。
「ちょっと、自分の場所に座んなさいよ」
触れ合った腕が邪魔だと言わんばかりに肘で突いてくるから、俺も負けじと体を更に密着させる。
「いいじゃ~ん!俺、ずーっとニノとくっついてたいもん!」
「だからその、もんっての、やめろ…」
呆れた風を装ってるけど、離れていかないってことは許してるってことで。
嬉しくなった俺は、腕を絡ませた。
「ちょっと…!もう、みんな来るから!」
「いいじゃん!どうせみんな知ってるんだし。いちゃいちゃしてたって気にしないよ!」
「俺が、する!」
「なんで~?」
「なんでって、恥ずかしいだろ!」
「俺は、恥ずかしくないよ」
笑みを消して、真っ直ぐ見つめながら言うと、ニノは一瞬息を呑んだ。
「ニノを好きなこと、恥ずかしいって思ったことないよ?」
「そんなの…俺だってあるわけないだろ…」
そうして、恥ずかしそうに目を逸らしながらそう言った。
その仕草がすごく可愛くって。
我慢できなくって顔を寄せると、ゆっくり目蓋を降ろしてくれるから。
背中に腕を回して引き寄せ、唇を重ねた。