第2章 朧雲
「な、何って、お土産だよ…ニノ、チョコレートケーキ、好きでしょ?」
「あ〜…、ありがと。で、これは?」
「これはって、花だよ!見れば分かるじゃん」
……そりゃ分かるよ〜。
聞きたいのは、何で花なんか持ってきたのかってこと。
「あんまり綺麗だったからさ…部屋に花があるのも、いいかなぁ〜、って思って…あれっ?ニノ、花、嫌いだったっけ?」
嫌いじゃないけどさ…
花が嫌いなんてヤツ、そんなにいないだろう…
問題なのは、俺が花を好きかどうかじゃなくて、どうして今、このタイミングで、雅紀が俺に花なんかを買って来たのかってことだ。
じーっと見つめると、雅紀は、えっ??
みたいなワザとらしい、すっとぼけ顔をしたかと思ったら、すっと目を反らした。
「ご飯、用意してくれたの~??もうお腹空いちゃったよ~?今日、何~??この匂いは~…」
そう言いながら、リビングに入っていった。
……あいつ、何か隠してる…
俺がろくに喋らないのに、ひとりだけあんなに饒舌な時って、なんか俺に後ろめたい事があるときだ。
……なんだろ??
飯食ったら、ゆっくり問い詰めてやろうか?
それとも、
昨日の、連絡なしのことか…?
「お!旨そう♪ハンバーグだ~…ねえ、ビール出すよ~」
……聞いちゃいけない…問い詰めない方がいい…
俺の中で、何かがそう警鐘を鳴らす。
根拠なんかない。
雅紀に限ってそんな心配、必要ない…そう信じていたし、現に今も信じているけど…
『雅紀…俺の思い過ごしでしょ?』
はしゃぐ背中に、俺は言い知れぬ胸騒ぎを抑えることができなかった。
この時は知らなかった…
雅紀が持ってきた、造花みたいな花の名前も…皮肉なその花言葉も…雅紀だってきっと知らないで買って来たんだ…
その花は、ダリア…
花言葉は、
『裏切り』
………
…ウラギリ…