第2章 朧雲
【和也】
来るって言ってた雅紀が来なかった。
しかも連絡もなしに…
こんなことは初めてで。
いつもは約束してなくても勝手に来るし、
約束してても時間前に来るし。
正直、面倒くさいと思う日もあったりして。
『たまには邪魔されないでゲームしたい』
なんて憎まれ口叩いたこともあった。
それでも雅紀はめげずに俺の側にいるから…
いつも、そこに居てくれるから…
それが当たり前になっていて…
それが、初めて裏切られた。
まあ、そんな大袈裟なものじゃないのだろうけど。
『来なくていいよ』何て言いながら、ビールを冷やしたり、風呂掃除をしていた自分が、今となっては滑稽だ。
仕事でトラブって、来れなくなったんだろう。
まあ、たまにはあるかな…
今まではそういうときは必ず、連絡があったけど…
俺は、彼が来なかった理由に、
何とか精一杯の言い訳をくっ付けた。
……今までは、来るって言ったら、例え明け方になろうと来ないことはなかったのに……
俺は、その想いに蓋をした。
『雅紀に限って』
『俺たちに限って』
夜8時過ぎ来客を告げるインターフォンが鳴った。
慌ててモニターを確認してロックを解除した。
「早かったね」
ちょうど玄関前に来るタイミングでドアを開けると、ビックリしたように固まる雅紀が立っていた。
「なんつ〜顔してるの?入れば?」
「あ、う、うん…急に開いたから、驚いた…」
何言ってんの?今更……
「あの…はい、これ…」
玄関で雅紀が差し出したのは、造花と見紛う程に綺麗に咲き誇る花の鉢とケーキの箱。
「何!?これ?」
後ろめたい親父の手土産じゃないんだから。
何で急に、こんなもん……
しかも、花って…
俺は訝しげにじっと雅紀の顔を見つめた。