第12章 彩雲
「ぶーっ…あはははっ…さっきの…智くんの…ひーっ…かおっ…あははっ…」
「…翔くん、笑いすぎ…」
上田が帰っていった玄関で。
翔くんは盛大に笑い転げた。
「ぐふふっ…いや、だってさ…くくくっ…上田、後輩なのにっ…ぶぶぶっ」
「…仕方ないだろ~っ!?あんなの、ヤクザに脅されたのと一緒じゃんっ!」
翔くんを泣かせたら
ぐるぐる巻きにされて
海に沈められそうなんだもん!
「ぶふふっ…んなこと、しないでしょ」
「する!あいつ、絶対するに決まってる!」
「大丈夫だって…」
翔くんは左腕で腹を抱えて笑いながら、右腕を伸ばして俺を抱き寄せる。
「だってさ。俺を幸せにしてくれるでしょ?」
俺を試すみたいに、スッと目を細めるから。
両腕を伸ばすと、むぎゅーって力の限り抱きついた。
「あったりまえじゃん!」
「さ、ざどじぐん…ぐるじ…」
「絶対、幸せにするもんっ!」
「わかった…わかったからっ…!」
ギブアップって、背中をどんどん叩かれて。
仕方ないから腕を緩める。
「もう…あなた、結構馬鹿力だってこと自覚してよ…」
「馬鹿ってヒドい」
「そうじゃなくって…」
まだなんか言おうとするから。
ちょっと背伸びして、唇を塞いだ。
目の前にきた、大好きな漆黒の瞳が、大きく見開かれる。
「…ありがとね」
「え…?」
「上田に…ちゃんと言ってくれたから…」
本当に
嬉しかったんだよ
「…だって俺たち、なんらやましいことなんてしてない、でしょ?」
「うん」
「だから…無理に隠す必要ないかなって」
「うん…うん…」
何度も頷くと、翔くんは優しく微笑みながら頬を撫でてくれて。
「これから先ずっと…俺たちは俺たちらしく、歩んでいこうね?」
「うんっ!」
蕩けるような優しいキスを、くれた。