第12章 彩雲
【智】
その瞬間
翔くんの肩越しに見えた上田の顔が固まったのが見えた
「…え…?」
その瞳は信じられないものを見たかのように、見開かれていて。
思わず、息を呑む。
嘘だよ、冗談に決まってんでしょ!
って言わなきゃって
頭ではわかってる
でも
嬉しくて
隠し通すことだってできたのに
ちゃんと俺とのこと
隠さずに言ってくれた
それが告白されるよりもっと嬉しくて
動けなかった
「え…あ…あ~…やっぱ、そうなんっすか!」
上田は、なんか恥ずかしそうに視線を泳がせながら、ぱっと頬を赤くした。
「ですよね~!うんうん。だって二人、めちゃくちゃ良い雰囲気ですもん!」
「そう~?ありがとう」
上田の動揺に気付いてないわけないだろうに、翔くんはさらっとお礼なんか言っちゃって。
「あっ、と…でも、これって…誰にも秘密、っすよ、ね…?」
「秘密っていうか…まぁ自分から言い触らすことじゃないけどさ。でも、上田は信用できる男だってわかってるから、なんか、ちゃんと言っておきたいって思ったんだ」
俺を振り向いて。
何十万人のファンの子たちがクラッとくる、あのとびっきりの爽やか笑顔を俺だけに向けてくれる。
「ね、智くん」
そのまま手を差し出すから、ドキドキしながら引き寄せられるようにその手を握った。
「…うん」
手を繋いだまま、上田を見ると。
今度はじっと繋いだ手を見て。
俺を正面から見て。
そして、なぜかギッと睨みつけてきた。
「ふぇっ…?」
「大野くんっ!」
「は、はいっ!」
あまりの迫力に。
猫背の背中がシャキッと伸びる。
「兄貴のこと、ぜっっっっったい、幸せにしてください!兄貴泣かせたら、俺、大野くんのことボコボコにしますからっ!」
「は、はいっ!わかってます!俺の全身全霊かけて、幸せにしますっ!」