第12章 彩雲
【翔】
来たときはすげえ不機嫌だったくせに、
なんで急に変わったんだよ…
大方上田に、特別だとか鎖で繋がってるだとか言われて気を良くしたんだろうけどさ…
リビングで、上田と話しながら、そっとキッチンに視線を戻すと、智くんは、手際よく包丁を操りながら『One Love』を口ずさんでいた
…ふ〜ん…
『One Love』の気分ってことね
「……そんで、この間の増田のぉ〜
…って、兄貴、聞いてます〜?」
「え?ああ、聞いてるよ、増田だろ?
あいつも行動が読めないとこあるよな〜」
「そうなんっすよ、だから俺〜…」
ラグにあぐらをかいて座った上田は、すっかりリラックスモードで。
こりゃあ、当分帰りそうもないな~
智くんが引き留めるから。
そうじゃなきゃ、今頃さ~……
「はい、お待たせ~」
「わあ~、すげえ!旨そうっす!!」
俺の邪念をぶった切って、智くんは皿を持ってやって来た
そこには、見たこともないようなアワビのステーキ…
「おおおおお、旨そう~♡」
「でしょ?絶対旨いよ♪待ってて、今切るからね~」
そう言うと、智くんはナイフとフォークで、手際よく、巨大アワビを一口大に切り分けた。
「智くん!食っていいの?」
「あ、待って!これ…いるでしょ♪」
そう言って智くんは俺に酎ハイの缶を差し出した。
「上田も飲むよね?」
「いや、俺は車なんで。これ食ったら直ぐに帰りますから…」
おっ!
上田にしちゃ、気が利くじゃん♡
いつまでも居座る気かと思って心配しちゃった、僕。
「あ、そう~?じゃ、悪いね…」
「持って来て貰ったのに、ごめんね、俺たちばっかり…」
「いや、全然、構わないんで、やってください!」
「「うぃ~っすっ♪」」
俺たちふたりは、軽く缶を合わせてプルタグを引いた。
ああ~、なんか幸せだな…この感じ。