第12章 彩雲
「…なんで怒ってんの?」
「怒ってないし」
無言のまま、車に乗せられて。
無言のまま、翔くんの部屋に連れて来られた。
「怒ってんじゃん!」
「怒ってねぇって言ってんだろ!」
「それのどこが怒ってないんだよっ!」
「怒ってねぇしっ!」
吐き捨てるように叫ぶと。
はーっと深い溜め息を吐き出して。
ぐしゃぐしゃっと髪の毛を片手で掻き毟った。
「…ごめん…」
俯いて。
小さな声で謝ってきた。
「…ううん…俺の方こそ、ごめん…」
「いや、智くんは悪くないし…」
「でも…俺も、翔くんの気持ち考えなしだったかも…」
「そんなこと、ないよ。俺が、子どもっぽいんだ」
「そんなことないよっ!翔くんは誰よりも大人だよ!俺のが年上だけど、俺のが子どもっぽいもん!」
つい、大きな声で反論すると。
ようやく顔を上げた翔くんは、くすっと笑った。
「いや…あなた、子どもじゃなくておじいちゃん」
「う…それは…」
「否定しないんだ?」
「…だって…最近、自分でも年取ってきたなぁと…」
「ぶはぁっ…」
ぼそぼそと言うと、派手に噴き出して。
ゲラゲラと声をあげて笑いながら、俺を引き寄せる。
「もう~っ!笑いすぎ!」
「だって、あなた超可愛いんだもん♪」
「そ、そんなことっ…」
言いかけたとき、翔くんの目がキランと光って。
ぐいっと腰を強く抱かれて。
そのぽってりとしたぷるぷるの唇が、ゆっくり近付いてきた。
「しょ…くん…」
その赤い唇を見つめながら、ゆっくりと目蓋を降ろす。
「…智くん…」
翔くんの熱い息が鼻先に掛かって。
キス、される…
その感覚を浮かべて、アソコがきゅっとなった瞬間。
“ピンポーン”
邪魔な音が、俺たちの間に割り込んできた。
「え…?」
思わず目を開くと、目の前には真ん丸になった翔くんの瞳。
こんな夜中に、誰?
「…無視だ!無視!智くん、ちゅーしよっ!」
そう言って、もう一度唇を近付けてきたけど。
“ピンポーンピンポーンピンポーン”
しつこくなるチャイムの音に、気持ちはすっかり萎えちゃった。
「…出たら?」