第11章 朝暉
「…智くん…」
「翔くん…」
見つめ合う
翔くんの顔がちょっとずつ近付いてくる
翔くんのぷるんぷるんの唇が重なるまで
あと数センチ…
俺は、そっと目を閉じた。
「…智くん…」
囁くような艶やかな声が耳元で聞こえて…
キス、される…
その瞬間を想像して、胸がきゅんっと鳴った。
その時。
俺たちを引き裂くような携帯の着信音が鳴り響いた。
「あ、やべっ!」
「え!?」
突然離れていく気配に、驚いて目を開くと。
ベッドを慌てて降りていく翔くんの背中。
「ちょ、ちょっと…!」
「ごめんっ、智くん!もうマネが下に迎えに来てるからさっ!」
「えーっ!?」
俺のこの胸きゅんは、どうしてくれんだよ~っ!
「仕事終わったら、また来るから!待ってて!」
「終わったらって…何時なの~?」
「あーっと…今日はZEROだから、早くても1時過ぎかな…」
「そんなぁ…」
情けない声が出た俺を尻目に、翔くんはさっさとバスローブを脱ぎ捨てて、昨日着ていた服に着替えていく。
「智くん、今日は休みだよね?」
「…うん、そう…」
「じゃあゆっくりしてて?夜に備えて」
「え?」
「俺、明日午後からだし…寝かせてあげるつもり、ないからさ」
「それって…」
さらっと飛び出た言葉が脳みそに届いた瞬間。
顔から火が出るかと思うほど、熱くなった。
「そ、そ、そ、それはっ…」
「ふふっ…智くん、可愛い♡」
恥ずかしさに悶絶する俺を片手で引き寄せて。
ほっぺたに軽いキスを落としてくれる。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん。ガンバってね」
「ありがとう。行ってきます!」
バタバタと出かけていく翔くんを玄関まで見送ると、玄関先でもう一度ちゅーをくれて。
翔くんは出て行った。
その後ろ姿を見送りながら、胸の中にある愛おしいほどの温かさを感じて。
「…掃除でも、しよっかな♪」
俺は、緩んだ口元をぐいっと指で拭った。