第11章 朝暉
「翔くん…俺は…」
智くんの綺麗な瞳が、戸惑いの色を映して揺れる。
「幸せに……俺にあなたを幸せにさせて…
…いや、違うな。
あなたの横で、俺が幸せになりたいんだ」
「………俺は、ズルいヤツなんだ…」
「ズルい智くんも、全部俺が引き受けるから」
「翔くんのことが好きだったのに、叶うわけないって…潤の気持ちを利用した…逃げたんだ、俺…」
「…ふたりで償っていこう」
「翔くんにそんなこと言ってもらえるような、そんなとこ、何もないし…」
「それは、俺が決めることだよ」
「それに俺…」
「言っとくけど、どんな言葉を並べても、俺の気持ちは変わらないよ?」
智くんの瞳に俺が映っている。
迷いのない、自信に満ちた男の顔だ。
「それに…」
「それに~?」
「意外とだらしないし」
「知ってる」
「めんどくさがり屋だし」
「知ってる」
「翔くんほっぽり出して、釣りに行っちゃうよ」
「好きなことしてていいよ」
「画を描いてると、部屋とか散らかっちゃうよ」
「頑張って片付けるよ」
「…翔くん、片付け、下手じゃん」
「だから頑張るって言ってるだろ~」
「それに…こう見えて、エッチだし」
「望むところだよ」
「翔くん疲れてても、お構いなしかもよ?」
「そしたら智くんが上になって♡」
「俺、実は、いぼ痔、だし」
「薬つけてあげるよ」
「それから…」
「それから?」
「………俺で、いいの?」
「智くんがいいんだ
智くんじゃなきゃ、ダメなの!」
俺を見つめる智くんの目から、大粒の涙が零れ落ちた。
大きくしゃくりあげて、俺の手に、そっと指を絡ませてきた智くんの手を、強く握り返した。
「……よろしくおねが…」
最後まで聞き終わる前に、その身体を抱き寄せて包み込んだ。
「しょお、くん…」
「智くん、好きだ…愛してるよ…」
「…ぐすっ…だけど、いぼ痔は、嘘だもん…」
「ふふふ、知ってる」
俺の中にすっぽりと納まった薄い身体は、
俺の胸に顔を埋めていつまでも泣いていて…
俺はずっと、その背中を優しく擦り続けていた。