第10章 慈雨
【翔】
思いがけない言葉が松潤から零れ落ち、
俺は何て返したらいいのか、考えあぐねていた。
『絶対に智は渡さない』
そう言われた方が、寧ろ驚かなかったよ…
何か、言わなきゃ…なにか…
「……あの、俺…えっと…」
「翔ちゃん、ほら、餃子食べよ!そんなに食べてないじゃん!」
相葉くんが俺の前に、大皿を押してよこした。
「…あ、うん…でも…」
「あ、ラー油が足りない?辛子入りのヤツがあったんだよ~、確か…持ってくるね」
相葉くんが席を立とうとしたその時、
「全くさ~…なんで、そんな考えてんだよ~?
いいじゃん、俺がいいって言ってんだから!
やった~!!これで智と遠慮なく付き合える!!ってさ。
そう喜べばいいじゃん」
そんな…そんなことできないよ…
そんな簡単なものじゃないはず。
それに智くんの気持ちだって……
「あのさ。この期に及んでまだ『智の気持ちが』なんて、心の中で御託並べてやしないよね?」
……なんで、それ…
「松潤…ちょっと落ち着けって…」
俺たちの様子を、黙って見ていた相葉くんが、堪りかねて割って入ろうとした。
だけど……
「翔くん!!」
「は、はい!」
「翔くんはさ、智のこと、俺に負けない気持ちで好きだって、そう言ったよね?」
「…うん…」
「だったら///」
松潤が、俺の腕を掴んだ。
「だったら、そのままの気持ちで突っ走れよ!智の気持ちなんか考えないで、好きだって!お前が欲しいって!
そう言えばいいじゃん…断られても、何度でも何度でも…繰り返しさ…智に、そう言って、向かっていけば…いい、じゃん…」
俺の腕を強く掴んだまま、松潤は俯いた。
その声は、小さく涙声へと変わり、その肩は小さく震えていた。
「松潤…」
「松潤!!もう止めよう!分かったから…松潤の気持ちは痛いほど分かった。翔くんだって…ね!」
……松潤に、ここまで言われなきゃ、
動けないなんて…
決心できないなんて…
何て意気地なしだったんだ、俺は…