第10章 慈雨
「松潤…」
相葉くんも、項垂れる松潤の背中を摩りながら、
かける言葉を探している。
俺は、馬鹿だ……
松潤の言う通りだ。
今更、いい人ぶって、松潤の気持ちに寄り添ってやってるつもりにでもなっていたのか?
偽善もいいところだ。
『松潤がどんなにダメだって言っても、俺は智くんが好きだ』
そう胸を張って…
自分の気持ちには、何の迷いもない筈だ。
『松潤がいいって言ってくれるまで、俺は智くんとは付き合わない』
今、気付いた
松潤の言葉で、目が覚めた
そんな言葉、俺が逆の立場だったら、惨めになるだけじゃないか?
自分の存在が、思い合っている二人の足枷となるなんて…
そんなこと、耐えられない
松潤だって……同じじゃないか…
「松潤…俺、間違ってたんだね?
智くんが松潤の気持ちを思って俺を受け入れようとしなくても、俺は…俺は、そんな気持ちを抱えたままの彼を…
包んでやらなきゃいけなかったんだ」
松潤が、強い眼差しで俺を見ている。
その目は、赤く潤んでいる…
「約束するよ。必ず、智くんを幸せにする…
何があっても、彼の側を離れないよ。
それが、俺の何よりもの願いだから…」
松潤の口角が、微かに上がった。
「相葉くん!餃子、ご馳走さま!親父さんによろしく言っといて。俺、行くわ!」
「リーダーのところ?」
「うん!
……松潤、ありがとう」
「礼なんか、いらないから…」
「いや、目が覚めた!俺…松潤の言葉、染みたわ…」
「…俺の前でイチャついたら、ぶっ殺す…」
そう言って、今度ははっきりと微笑んだ彼に、
「それは約束できないな」
俺も笑った。
相葉くんのマンションを出た俺は、智くんに電話を掛けようとしてスマホを出して、止めた。
いいや…このまま行こう。
俺のこと、待っててくれるはずの、彼の下へ…
傷の深さや大きさは違っても、俺は4人を傷付けた。
それは紛れもない事実…
そしてその罪は消えない。
だからこそ、この先をどう生きるかで、償っていくしかないんだ。
急いで表通りでタクシーを拾い、俺は智くんのマンションに向かった。