第10章 慈雨
『松潤…』
思わず、手を伸ばして。
膝の上で硬く握り締めた手を包み込んだ。
松潤はちらりとそこに視線を落とした。
『でも…いつ頃からだろ…そんな顔、見ることが出来なくなってた。思い返してみれば、それは翔くんが俺たちの間に入ってくる前からで…。俺は焦って…俺だけの智でいて欲しくて…俺の腕の中だけに閉じ込めたくて…あの人の自由、奪ってしまってたのかもしれない…。誰よりも、自由でいたいあの人を…』
『そんなの…好きなんだから、しょうがないじゃん…』
好きなんだから自分だけのものでいて欲しい
そう思うことは
おかしなことじゃない
『…相葉くんは、優しいね…』
ゆっくりと顔を上げた松潤は、また笑った。
どこか寂しそうな影を落としながら。
『あの人も…優しいから…スゴくスゴく優しいから…。心が離れても…傍にいてくれようとした。自分を殺してでも。でもさ…壊れてく智を見て、怖くなった。怖くて怖くて…でも、どうしていいかわかんなくて…。翔くんとニノがあそこから智を連れだしたってわかったとき、すごく腹が立ったけど…でも、心のどっかでホッとしたんだ。これで、ようやく終わるって』
『そんな…』
『翔くんの隣にいる智を見て、まだ胸がジクジク痛むけど…。でも、もうちゃんとわかってる。俺が大好きだった智の幸せそうな顔は、もう俺じゃあ引き出せないってこと。それは、翔くんの隣じゃなきゃ、見られないってこと。だから…もういいよ。もう、自由にしてあげるよ…』
そう言って穏やかに笑う松潤に、俺はもうなんにも言えなくて…。
『…ありがとね…』
『え…?』
『相葉くんとニノが傍にいてくれたから…寄り添ってくれたから、俺、そう思うことができた。一人じゃないって…そう思えることが、本当に有り難かったからさ』
『そんなこと、ないよ…』
『ううん…2人のおかげだよ。ありがとう…』
そう言って微笑んだ松潤の瞳から、一粒だけ涙が落ちた。
「始めは許せないって思ったよ、翔くんのこと…
でも…でも、翔くんのせいじゃなかった…
俺たちもう…俺がどんなに足掻いても、元には戻らなかったんだ…俺が浮気しなくても…翔くんが入って来なくても…きっと終わってたよ…」
俯いたまま、ポツポツと翔ちゃんに話す松潤の手を握ると。
痛いほどの力で、握り返してきた。