第10章 慈雨
【翔】
ふたりでの撮影が終わって、楽屋に戻ると、3人は居なくて…
次の現場に行かなきゃいけない俺をマネが急かした。
「先荷物置いてきますから~」
「うん…直ぐ行くよ」
部屋の中には俺たちふたりきりになった。
「翔くん、相変わらず忙しそうだよね…」
「そう言う智くんだって!あの後、仕事ぎっしりじゃん!」
「…それは…みんなに迷惑かけたから…
特に翔くん…俺の仕事までやってたんだってね」
「え~?そうだったかな…」
「しょうくん……」
また顔をぐちゃっと歪ませるから、
智くんの頭の上に手を置いて、
「終わったら連絡する」
そう言って部屋を出た。
智くんは眉を下げたまま頷いた。
泣きそうな顔で…
ホントは一緒にいてあげたいし、居たいけど。
そうもしてらんないから…
部屋に居なかった3人のことは気になったけど、
潤のことは二人が上手くやってくれる…
ふたりには、本当に頭が上がらない。
ニノと相葉くんには関係ないといえばそうなのに。
ましてや俺は二人にとって……
なのに、常に二人で潤に寄り添ってくれている。
それがどんなにありがたいか…
潤だって、きっと心強い筈だ。
ひとりでいたら、こんな場所に出て来れたかどうか?
移動車の窓から外を見ると、
ちょうど信号待ちをしている高校生が目に入った。
奇しくも、野郎ばかりの5人組。
戯れあって、笑い合って…
思わず顔が綻んだ
俺たちにも、あんな頃があったな…
何でもないことが可笑しくて…
笑い転げて…
今思うと、あの頃から……
俺は、智くんを特別に思ってた気がする
それが恋愛感情なんだって認識するのに
20年近くかかっちゃったけど…
しかもそれは、最初っから棘の道だった訳で…
CMの仕事が終わり、控室で着替えていると、
スマホが立て続けに震えた。
いくつか入っている中で、
智くんからは、
『終わったら俺ん家に来て。船長がハマチ送ってくれたんだ。旨いよ』
と、ハマチの刺身の写真が添えられたいた。
ハマチなんか無くたって、行く気でいたよ…
思わず笑みがこぼれた。