第10章 慈雨
なのに。
翔くんは、すぐに立ち止まって振り返った。
「…智くん?どうかした?」
どうしてなんだろ…?
どうして、すぐに気付くの…?
「智くん…?」
心配そうに眉を顰めて、駆け寄ってくる。
「…行こう?」
動けない俺の手を、引いてくれる。
どうして…
手を繋いでスタジオを出る俺たちを、スタッフさんたちはニコニコしながら見送ってた。
「な~んか、喜んでいいんだかね?こんなおっさん達が手を繋いでても、気持ち悪がられないってさ」
俺のモヤモヤした気持ちを感じてくれてるのか、わざと戯けたような言い方をしてくれて。
なんだか、目の奥がじーんとした。
「…もう…そんな顔、しないの」
困ったように苦笑しながら、人差し指で眉間をグリグリってされた。
「泣きたいんなら、後で胸を貸すから。だから、今は、ね…?」
今は…
潤の前では
そんな顔しちゃダメだ
「うん。わかってる」
俺は、自分から翔くんの手を離すと、パンッと両手で頬を叩いた。
「大丈夫。ちゃんとやる」
「うん。…って、あーあ、ほっぺた赤くなっちゃったよ?」
翔くんの手が、また俺の方へ伸びてきて。
でも、頬に触れる直前で止まった。
「…ごめん」
「…うん」
ぎゅっと拳を握った手が、名残惜しそうに離れてく。
そのまま、翔くんは控室へ向かって歩き出して。
俺は、その半歩後ろを歩いた。
「あ、翔ちゃんリーダー、お疲れっ!」
翔くんが楽屋のドアを開くと、相葉ちゃんの元気な声。
「あなた…その言い方だと、翔ちゃんがリーダーみたいじゃん」
ニノが、呆れ気味の声で相葉ちゃんにツッコむ。
「えーっ!?そお?」
「そうだよ」
じゃれ合う2人の向こう側、部屋の隅に潤が俯きがちに座ってて。
思わず視線を送ると、ふいっと目を逸らされてしまった。
「…潤…」