第10章 慈雨
【雅紀】
「…なにしにきたの?」
ドアを開けてくれた松潤は、眉間に皺がよってた。
「なにしにきたのって冷たいな~!一緒にご飯食べよ?」
スーパーの袋を目線の高さまで上げると、ますます皺が深くなる。
「俺、腹減ってないし…」
「んなこと言わないでさ!一緒に食べよ?俺、腹ペコペコだし!一人より二人の方が美味しく食べられるじゃん!」
そう言って、少しだけ開けられたドアから無理やり玄関へと体を滑り込ませると、わざとらしい大きな溜め息が落ちる。
「はぁ…ニノと食べればいいじゃん…」
「あいつは今日は別の約束があるのっ!」
「あっそ…」
迷惑そうな顔をしつつも、リビングへと案内してくれる。
「…心配しなくても、俺は大丈夫だよ…」
俯き加減で、ボソリと呟いた肩を、強く抱いた。
「別に、心配なんてしてないよっ!ただ、今日は松潤と飯食いたかっただけ!」
「…朝も食べたじゃん」
「え~?そうだっけ?忘れちゃった!」
「あっそ」
素っ気ない背中を追いかけて、キッチンへ押し入ると、松潤はもう何も言わなかった。
「チャーハンでいい?麻婆にしようかと思ったんだけどさ~」
「だから、俺は腹減ってないって…」
面倒くさそうにしながらも、まな板と包丁を用意してくれる。
そんな、さり気ない優しさに、胸が温かくなる。
よかった
少しずつだけど
いつもの松潤を取り戻しつつある
こっそり胸をなで下ろしながら買ってきたネギを刻む俺を、松潤は傍でずっと見つめていた。
「…みじん切り、上手いね」
「そう?」
「…智も、上手かった」
不意に飛び出た言葉に、思わず手が止まる。
「…玉ねぎ渡したら、飽きもせずにずーっとみじん切りしててさ…すっごい細かいみじん切りが出来て。潤、見て、って…嬉しそうに…」
淡々と話してた語尾が、大きく震えて。
トン、と肩に重みが乗っかったと思ったら、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「…ごめん…少しだけ…」
「…うん…」