第10章 慈雨
振りむいて、抱き締めてしまいたい…
そんで、めちゃくちゃにキスして、
そんで…
そんで……
俺は、湯気で曇った鏡を拳で拭った。
鏡越しに、泣きそうな顔した智くんと目が合った。
……自分たちの罪とはいえ、
こんな側に、こんな顔した裸の彼がいるのに、
触れちゃいけない……
抱き締めてしまったら、
その先を求めてしまう…
それは……今は…
「絶対に許してもらうよ!100回だって、1000回だって、潤がいいって言うまで、何度だって謝るから。
だからさ…」
「翔くん……」
「ずっと側にいるから…
何があっても智くんのことだけは、離さない…
約束するよ…」
「翔くん…」
智くんが、泡だらけの手で顔を覆うから、
その後目に染みて大騒ぎになり、
甘い切ない空気は一気にどっかに行っちゃって///
正直ほっとしたけどね。
その夜は、どうしても、悶々とした気持ちに手こずった俺は、智くんとどうでもいいことを話しながら酒を飲み……
結果、彼は正体を無くした。
こうなった彼は、この後の記憶が全然なくなるんだよね~…やってることも、覚えてない。
覚えてないからこそ、本音なんだ。
「ねえ~、しょおくぅ~ん…」
「はいはい…」
「はいはいじゃないよ~?しょおくんは、全然分かってないよね~、俺の気持ちなんか…」
大分絡んでくるな…(^^;
「分かってるって」
「それ!その言い方が、もう俺のこと、めんど~くさいヤツ、って、そう思ってるでしょ~?」
「思ってないって…」
凭れる彼の肩を撫でながら、さてどうしようかと考えていると、
「…翔くんは、分かってないぉ…俺が、どんなに、翔くんが、好きか…」
「…智くん…」
「……しょお、くぅ~ん…」
「……」
「しょうくん!」
「何よ~?」
「しょうくん……あいしてるよぉ…」
「…智くん…」
その後、智くんの意識が戻ってくることはなかった。
全く……
人の気も知らないで……
眠る智くんは、ほんの少し微笑んでいた。
俺は、その唇に
そっと重ねるだけのキスをした。