第10章 慈雨
【翔】
ニノが出ていった玄関で、
暫し見つめあった俺たちふたり……
今まで賑かだった分、
この静寂が一気にドキドキを連れてきた。
智くんの、少し不安そうな瞳に、
絡み合った視線に、
心はその答えを求めて彷徨うけど…
俺は智くんに分からないようにぎゅっと奥歯を噛み締めた。
本当は二人でいることも許されないのかもしれない。
分かってる…
だけど……
今、この人を一人にするなんてできない。
智くんの傍にいたい
「俺、風呂借りてもいいかなぁ〜」
「……え、あ、うん…」
「智くんは?」
「俺は……俺も一緒に入ろうかな~?」
「えっ…一緒に?」
「ダメかな?」
「……ま、いっか。じゃ、そうしよ?」
そして、風呂の椅子に座る俺の頭を、
智くんの指が掻き混ぜてる。
何でこんなことに…
……え~っとぉ~…
米中貿易戦争が過熱して…え~、
大阪で開催されるG20が…
景気判断が6年ぶりに悪化の傾向で…
……泡を混ぜる様に智くんの指が、頭皮を刺激するから、俺は反応しないように必死でzeroの原稿を思い出す。
あああ///もうヾ(≧▽≦)ノ
こんなことになるのは分かってたじゃん!
『頭、洗ったげよっか』の提案を、
なんで丁重にお断りしなかったんだよ、俺!
いつか誰かが言ってた…
頭皮には性感帯があるんだって。
シャンプーしてもらってて眠くなるのは
そのせいだって…
それにしても、長くね!?
ずーっとさっきからやってるけどさ、
おれ、ゆうても、そんなに頭汚くないよ?
毎日シャンプーしてるしさ…
「…翔くん…俺さ…」
「ん?」
「潤には、潤が許してくれないなら翔くんとは付き合わないって、そう言ったけどさ…」
「……」
「付き合わないのに、こんな風に側にいるのって、
やっぱ変だし…ダメかな~?」
智くん……
彼の言葉に、胸が詰まる。