第10章 慈雨
【智】
「ごちそうさま!うまかった~」
翔くんは手を合わせると、俺に向かってにこっと笑った。
「急いで作ったにしては、なかなかの出来だったね」
ニノも空になった皿を前に、手を合わせる。
「うん…すごく美味しかった…ご飯が美味しいって思ったの、久しぶりかも…」
あの家で
潤といたときも
1人の時も
食事なんて生きているために必要な手段なだけで
味わって食べるなんてしたことなかったかも…
やっぱり
俺のやったことは間違ってたんだね…
「ご飯が美味しいってさ、それだけで幸せだよね?」
また思考の海に沈みそうになった俺を見透かしたように、翔くんが優しい声で言った。
「うん…」
今まで当たり前だと思ってたことが
こんなにも大切でかけがえのないものだったなんて
ねぇ潤…
おまえにもちゃんと
取り戻して欲しい
ご飯が美味しいこと
空が青いこと
風が優しいこと
翔くんが
相葉ちゃんが
ニノが
みんなが
笑顔でいること
なんでもないそんなことが
涙が出るほど幸せだってことを
もう一度思い出して
その為になら
俺はなんだってするから
「…智くん…」
翔くんの手が、俺の手をそっと包み込む。
「1人で、抱え込まないで?あなたが、俺にそう言ってくれたんでしょ?」
「…うん…」
「もう一度、あの頃の俺たちを取り戻そう?みんなで…」
「そうだよ。俺も雅紀も、協力するから」
俺と翔くんの手の上に、ニノの手が重なって。
「…うん。ありがとう…」
俺一人じゃ難しいことでも、みんながいてくれたらきっと大丈夫。
俺たち今まで、そうやってやってきたんだもんね。
「よし!じゃあ景気付けにチーズケーキ食べよう!」
「「おーっ!」」