第10章 慈雨
智くんとニノは、わちゃわちゃ戯れながら
出来たものをダイニングへ運んでいる。
手を洗い、うがいしてリビングへ戻ると
ふたりが言い合いをしていた。
なんだろう?
ニノが俺に歩み寄って来た。
「ねえ~、翔ちゃん!大野さんが俺の邪魔するんだよね~」
「邪魔?」
「だって、そんなのしなくてもよくね?」
ニノを止めようと焦る智。
何?なに??
「翔ちゃん見てよ~これ、翔ちゃんのやつ…」
見れば、皿に盛り付けられたオムライス。
その上のケチャップが無残にぐちゃぐちゃに塗り付けられていた。
「これがどうしたの?」
「俺がメッセージを書いたんだけど、
大野さんが消しちゃったんだよ~」
そんなこと、智くんが…?
俺の視線に気まずそうに智くんが目を伏せた。
「ニノ~、何を書いたの?」
「何って、大きなハートを…」
ハート♡…?
「でも、その下にさ…」
もじもじする智くんがちょっと可愛い…
「その下に、S・Oって書いたんだ~♪」
S・O?
……おおのさとし…か?
だから…消したのか~
「そんなの書かなくてもいいじゃん!」
「何がよ?」
「だから~、俺の…名前を…」
ニノは小さな声で異議を唱える智くんにニヤリと笑って言った。
「誰がリーダーの名前って言った?」
「だって、S・Oって、どう見たって俺じゃん!」
「違うよ~、あれ?自分だって思ったの~?」
「そりゃ…じゃ、誰だよ?」
「小栗旬」
「……」
「ぶぅーーーーっ///」
吹き出した俺を、智くんが翔くんのバカ!!と叩いた。
俺とニノは、ますます腹を抱えて笑い、
智くんは膨れて横を向いてしまった。
このタイミングで、松潤とふたりの仕事をしてきた俺への、ニノの…気遣いなんだな、きっと…
『ありがとうな…ニノ』
心の中で感謝して、
俺たちは和気あいあいと夕飯を食べた。
何でもないこんな風景と、温っかい空気が愛しくて、
堪らなく嬉しかった。