第10章 慈雨
俺もニノも、サングラスも眼鏡も、帽子すら被んないで出掛けたのに。
買い物してても、ちょっとのざわめきすらなかった。
「…大野さんが、オーラなさ過ぎなんでしょ…」
「そう言うおまえだって、そんなダルダルの格好だから、まさか嵐の二宮だって思われないんだろ~?」
「人のこと言えないでしょ!」
互いに責任を擦り付け合いながら、マンションへ戻り、夕飯の支度を始めたところで、翔くんから電話がきた。
『今、終わったよ』
「お疲れさま。長かったね」
『うん。今日は手打ち蕎麦作ったんだけどさ、なんか松潤が盛り上がっちゃって、予定になかったガレット?とかいうのとか作っちゃって…』
何気なく潤の名前が入ってきて、一瞬ドキリとしたけど。
スマホから聞こえてくる翔くんの声は明るくて、何かを隠してるようには聞こえない。
大丈夫、だったのかな…?
「…撮影、楽しかった?」
『うん。楽しかったよ』
俺の質問にも、なんの躊躇もなく答えてくれて。
バレないように、こっそり息を吐いた。
『…ねぇ。今から智くんちに行ってもいい?』
不意に、少し声のトーンを落として翔くんが言った。
もしかして…って思って、翔くんが来ても大丈夫なようにご飯作ってたんだけど、まさか本当にそう言ってくるとは思わなくて。
思わず、ニノの顔を仰ぐ。
俺の言いたいことがわかっていたのか、ニノはニコッと笑って。
また手元に視線を落として、野菜を刻み始めた。
「あ、うん。いいよ。実はさ、翔くんの分のご飯も作ってるから…」
『え?マジで!?ありがとう!腹ペコペコだったんだよ~!』
「…蕎麦とガレット食べたって言ったじゃん」
『あ…』
俺に気を遣ってくれたのか、そんな嘘を吐いた翔くんが可愛くて愛おしくて。
「待ってるね」
唇から零れた声は、自分でも分かるほどに弾んでいた。