第10章 慈雨
【智】
「あ~、くっそ…また負けた…」
10回目の敗戦に、俺はコントローラーを投げ出した。
「ふっふっふ…俺に勝とうなんて、100年早い」
「ゲームでおまえに勝てるわけないだろ…」
ふて腐れて、ごろりとラグに寝そべると。
ニノの手が、子どもにするみたいに、頭をいい子いい子って撫でてくる。
「…やめろ」
「やめない」
言葉で拒否したけど、ニノの手は離れる気配はなくて。
俺はそっと目を閉じて、その温かさを受け入れた。
「…おまえ、今日仕事は?」
「今さらそれ聞く?休みだよ」
「そっか…ごめん、貴重な休みをこんなとこで費やして」
「ホントだよ。今日こそはパズドラの最高記録を狙おうと思ってたのに」
文句を言いつつも、その口調は穏やかだ。
「だったら、自分ちにいりゃよかっただろ…」
「大野さん、腹減った~。なんか出前とろ?」
俺のぼやきはガン無視して、時計を見上げる。
いつの間にか、もう外は暗くなる時間になってた。
「あ~、うん…」
頷こうとして、ふと今朝の翔くんとの会話を思い出す。
『仕事終わったら連絡するよ』
今日はテレビ誌の撮影だけって言ってたな…
だったらもう終わるのかも…
もしかして、うちに来るかな…?
「…出前じゃなくて、なんか作ろう。俺、近くのスーパーに買い物行ってくるわ」
俺は立ち上がった。
ずっと留守にしてたから、冷蔵庫には何も入ってない。
「え~、めんどくさいじゃん!出前でいいでしょ?」
「文句があるんなら、帰ってもいいんだぞ?」
別に脅しってわけじゃなかったんだけど。
そう言ったらしぶしぶ立ち上がって、車のキーを手に取った。
「わかったよ…ちゃっちゃと行ってこよ」