第10章 慈雨
「え…?」
「だから~、その黄緑?萌黄色?
その淡い色…初めて見る気がする」
「あ、ああ、これね…」
俺は松潤に言われたカーディガンを見た。
「そう言われれば、そうかも…
俺というよりは、むしろ……」
「「ニノ!」」
本日三度目のシンクロに、
俺はこの日、初めて松潤と目があった。
彼の目は、驚くほどに凪いでいて、
俺は息を飲んだ。
いつも通りに言葉を交わす俺たちに、
近付いてきたスタッフが、
今日の撮影のコンセプトについての説明をする。
頭を寄せて説明のためのiPadを覗き込んだ。
撮影は、順調に進む。
「ふたり、もう少しくっついてくださ〜い」
「こっちに目線お願いします!」
「もう少し笑顔で〜」
「櫻井さん、松本さんと肩組んで……
そう!いいですねぇ〜」
次々出される注文に、俺たちは的確に応えていく。
周りには、こんな風に拗れる前と、
何ら変わりなく見えるだろう。
………少なくとも、表面上は、だ。
撮影は予定通り進み、休憩に入った。
楽屋に戻ると出前が来ていた。
「食べよっか…?」
「うん…」
俺が言うと、松潤は素直に俺の隣に腰かけた。
………ふたり、無言で、
少しのび気味のラーメンをすする。
打ち合わせにマネージャーたちが席を外すと、俺たち二人になった。
すると、松潤が俺の方を見ないまま言った。
「俺さ、まだ割りきった訳じゃないから…」
「……」
「智とはもう、戻れないのかもしれないって、そう思うけど…諦めたわけでもないし、
翔くんとのことも」
「潤……」
松潤は俺をしっかりと見た。
「認めてないし、許せないでいるから」
「うん…分かってる……」
俺の言葉に、表情を変えることもなく、なるとを口にほうり込んだ松潤…
…………分かってるよ。
そんな簡単なもんじゃないってこと……
だけど……
俺は…………
松潤は、もうそれ以上、何も言わなかった。