第10章 慈雨
【翔】
松潤は、珈琲のカップを片手に、
携帯を弄っている。
何か……話した方が、いい…よな?
俺から…
でも……
何をどう話していいのか、
彼と普通に会話するのに、
どんな話題を振ったらいいのか、
もう俺には分からなくなっていた。
潤……
今、何を思っている?
何を考えてるの?
「夕飯、出前取りますけど、何がイイですか~?」
俺たち二人の異様な雰囲気に、気を利かせたのか、さっきまで打ち合わせをしていたマネが話し掛けて来た。
「じゃあ、ラーメン」
「俺は、ラーメンで」
思いがけず、二人の声がシンクロする…
思わず顔を見合わせる俺と松潤……
先に反らせたのは彼の方だった。
「じゃ、電話しておきます!
撮影の休憩が19時半なので、その頃に持って来て貰うようにしますね~」
「うん、ありがと」
その時、
「櫻井さん、松本さん、準備出来ました!
お願いします!」
スタッフが呼びに来た。
「「はい…」」
俺たちは同時に立ち上がり、目を合わすことも無くスタジオへと向かった。
松潤の背中を見ながら廊下を歩く。
これじゃ、いけないよな…
こんな話もしないギスギスした雰囲気、
俺たちらしくないし、スタッフが変に思う……
表面上だけでも、何とか取り繕わなきゃ。
気持ちは焦るけど、
松潤に普通に話し掛けるのって、
どうやったらいい?
俺は、こんなことになる前、
どんな風に彼に接していた??
『大丈夫、逃げてる訳にもいかないから』
なんて言って、松潤との仕事を入れたまま挑んではみたけど…どうしたらいいのか分からない俺。
こんなことなら、やっぱり今日は、
……今日のところは、松潤と二人の仕事は、避ければ良かった…
今更後悔しても、遅いけど…
その時、
「翔くんがその色着るって、新鮮だね」
スタジオに入るところで、振り返った松潤は、
そう話し掛けて来た。