第10章 慈雨
『そうですか。それじゃ、明日から早速…』
マネージャーが次々に入れていくスケジュールをぼんやりと聞きながら、また翔くんの笑顔を思い出していた。
「ねぇ…翔くんって、今日なんの仕事?」
『櫻井さんですか?えーっと…今日は松本さんとテレビ誌の取材ですね』
「えっ…?」
潤と…!?
あんなことがあったばっかりなのに
大丈夫、なんだろうか…?
『それじゃ、明日の11時に迎えに行きますんで』
急に激しく脈打ち始めた心臓の音を耳元で聞きながら呆然と立ち尽くしていると、いつの間にか通話は終わってて。
でも、すぐさま再びスマホが震えた。
「…もしもし…」
反射的に、耳に当てると。
『…大野さん?今、自分ち?』
ニノの声が、聞こえてきた。
「あ…うん。そう…」
『そっか…翔ちゃん、行ったんだね』
「なぁ、ニノっ…今日、翔くんと潤、一緒の現場だって…」
『うん。知ってる。潤くん止めたけど、大丈夫って言い張って出掛けたから…』
「…大丈夫、だよな…?」
『…2人とも、プロだもん。大丈夫だよ』
「…うん…」
ニノの落ち着いた声音が、じんわりと耳から入ってきて。
酷く動揺していた心を少しずつ落ち着かせてくれる。
『…ね、これからそっちに行ってもいい?』
「え?」
『ってか、行くから。一緒にゲームやろ?』
「え、いや、いい。遠慮する…」
『なんでだよっ!今から行くから!ちゃんと鍵開けてよっ!』
強引に言い放って。
ブツッと電話は切れた。
「…強引だな…」
呟いてみたけど、心の中はじんわりと温かくて。
俺は、ニノのために久しぶりに自分の部屋でコーヒーを淹れる準備をした。