第10章 慈雨
智くんのマンションの駐車場に車を停めた。
「じゃ、仕事終わったら連絡するよ!」
「うん…っていうか、俺、大丈夫だから」
「そう?…でも、一応ね?心配だしさ…」
「ふふふ、翔くんって心配性だね~?
俺の親かよ!」
そう笑った彼のこと、思わず抱き締めた。
「翔くん…」
「ごめん…ちょっとだけ…」
「…うん…」
時間にしたら、ほんの数秒だ。
智くんの体温を感じて、
智くんの匂いを思いっきり吸い込んで…
「じゃ、行ってくる…」
「うん…頑張って!」
車から降りて、何度も振り返りながら消えていった小さな背中を見送って、大きく息を吸い込んだ。
「よし、行くか!」
俺は、時計で時間を確認し、
今日の撮影の場所へ向けてアクセルを踏んだ。
「おはようございま~す!」
いつも通りに入っていくと、マネが急いで駆け寄ってきた。
「櫻井さん…あの…」
「大丈夫!今日の予定は?」
マネージャーから、撮影のタイムテーブルを確認していると、そこに松潤が入ってきた。
「おはようございま~す…」
サングラスをかけたままなので、
彼の表情は分からない。
奇しくも、智くんを取り戻してからの
一発目の仕事が、テレビ誌の取材…
松潤との企画ものだった。
…別のメンバーに変えてもらうことも出来た。
でも、敢えてそれはしなかった。
ずっと逃げてるって訳にはいかないから…
松潤がここに居るって言う事は、
彼もまた、俺との企画を誰かに変えてもらうことをしなかった…
つまりは、そういうことだ。
彼も、俺を避けてはいられないということを分かっている…
俺の側には来ずに、そのままケイタリングのコーナーへ行って、珈琲を入れている。
「はい、どうぞ…」
「………」
松潤は、俺の分のコーヒーを淹れ、
俺に持ってきたんだ。
「ふふふ、何だよ?
その、鳩が豆鉄砲食らったような顔は…」
俺にカップを渡した彼は、そのまま、
俺から一番離れた席に腰を下ろした。