第10章 慈雨
「うんまかった!ご馳走様!」
翔くんは、オムレツとパンをあっという間に平らげた。
「お礼に、コーヒーは俺が淹れるね?」
そう言って、俺の分の食器も一緒にシンクへと持っていく。
「…ねぇ、翔くん。今日の仕事、何時から?」
コーヒーメーカーをセットする横顔に話しかけた。
「今日は、夕方からだけど…」
チラリと、俺を見つめる。
俺の考えてること
きっとわかってるよね…?
「…俺、事務所行きたいから、一緒に行ってくれる?」
そう言うと、すぐに頷いてくれた。
「うん。わかった」
それから、他愛もない話をしながら翔くんの淹れてくれたコーヒーをゆっくり飲んで。
2人で、後片付けをして。
「シャワー浴びてくるから、待ってて?」
「うん」
浴室へ向かう背中を見送ると、俺は携帯を確認した。
そこには、ニノからのメッセージが1件だけ入っていて。
潤へ送ったメッセージは、まだ既読にはなっていない。
胸が、小さく軋む音を立てた。
潤…
今、どうしているだろう…?
少し息苦しくなって、胸を抑えながらニノから来ていたメッセージを確認すると。
『Jなら、大丈夫だから。俺と雅紀に任せといて』
短いけれど、とても力強い言葉が書かれていて。
目の奥が、じわりと熱くなる。
ごめん、ニノ…
ごめん、相葉ちゃん…
そして
ごめんね、潤…
「…智くん…」
携帯を胸に抱えて立ち尽くしていると、背中から翔くんの声が聞こえた。
慌てて、滲んだ涙を袖口で拭って、無理やり笑顔を貼り付けて振り向こうとして。
でも、強い力で引き寄せられて。
翔くんの肩に、顔を押し付けさせられた。
「…無理に、笑わなくていいから…」
「…翔くん…」
腕を伸ばしたくなったけど、拳を握ってそれを堪えて。
彼の剥き出しの肩に、一粒だけ涙を零した。