第10章 慈雨
【智】
目を開くと、見慣れない天井が見えた。
一瞬、自分がどこにいるのかわかんなくって。
でも、手の温もりに気付いて横を見ると、健やかな寝息を立てる翔くんがいて。
ようやく、昨日のことを思い出した。
「…ありがとね…翔くん…」
ホントは一緒にいちゃダメなのに
俺のワガママきいてくれた
いつもいつも
翔くんは俺のワガママを黙って聞いてくれる
優しい笑顔を浮かべながら
「…大好きだよ…」
絡め合った指に、少しだけ力を籠めて。
そっとそれを外す。
ベッドから抜け出して起き上がると、頭がスッキリとしていた。
泊めてくれたお礼に、朝ご飯でも作ろうとキッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けると、中はスカスカで。
そういや、料理やんないんだっけ
彼らしい光景に、なんだか笑いが込み上げてきた。
辛うじて入ってた卵を取り出し、他に何かないかと棚を漁って、明太子入りツナ缶を見つけた。
賞味期限を確認すると、ちょうど1週間後。
「これ、使わせてもらおっと」
卵を丼に割り入れ、そこにツナ缶を混ぜ、オムレツを作る。
パンを焼き、即席スープを作って、翔くんを起こしに行こうとキッチンを出たところで、ベッドルームからバタバタッと物音がして。
「智くんっ!?」
翔くんが慌てた様子で飛び出してきた。
「おはよ、翔くん」
「あ…おはよ…」
声を掛けると、立ち止まって。
ホッとしたように息を吐く。
「…帰ったのかと思った…」
「ふふ…黙って帰ったりしないよ。ちょうどご飯出来たよ。食べよ?」
「えっ!?ごはん!?なんか作れるようなもの、あったっけ!?」
目を真ん丸にして、ダイニングテーブルを上を見て。
「うわっ!すげーっ!美味そうっ!智くん、ありがとうっ!」
本当に嬉しそうな笑顔に、俺の心はふわりと温かくなった。