第9章 暁
【雅紀】
3人が出て行ったドアを、松潤はずっと見続けた。
その背中は酷く哀しげで。
俺はなかなか声を掛けることが出来なかった。
どれくらい、そうしていただろう…。
「…っふ…」
唐突に、小さな笑い声が聞こえて。
「…松潤…?どうしたの…?」
思わず、声を掛けた。
「…ふふふっ…なんか、俺、バカみてぇ…」
「え…?」
「だって…そうだろ?智は、俺のことなんかもう好きじゃないくせに、俺の傍にいるっていうし…翔くんは翔くんで、俺に遠慮して智とは付き合わないなんてさ…。結局、俺が邪魔者なんじゃん」
「邪魔者なんて、そんなことないよっ!」
吐き捨てるような言葉に、怒りが湧いて。
松潤の正面に回り込んで、肩を掴んだ。
「そんな言い方っ…」
するなよって言おうとして、でも言えなかった。
自嘲するような笑みを浮かべた頬に、大粒の涙が零れ落ちてたから。
「…松潤…」
「…わかってる…俺が身を引けばいいんだってこと…。でも…でも、俺っ…俺は、まだ智をっ…」
最後は言葉にならなくて。
真っ白になるほど唇を噛み締めて、声を殺して泣いてる松潤に、掛ける言葉なんてなくて。
だって、わかるもん…
もしニノが、俺より好きな人が出来たとしても
手を離してやることなんて出来ないもん
好きだから…
大好きだから…
好き過ぎるから…
だから、どうしていいかわかんなくなる…
「…うん…わかるよ、松潤…」
肩を抱き寄せると、迷子の子どもみたいに震えて。
「…っく…うぅぅっ…」
堪えきれなかった嗚咽を漏らした。
俺は掛ける言葉を見つけることが出来ないまま、ただ小さくなった背中をいつまでも擦ってやった。