第9章 暁
「…ダメ…翔くん…」
口では拒否の言葉を吐きながらも。
動けなかった。
「うん…ごめん…」
翔くんも謝罪の言葉を紡ぐのに。
俺を包み込む腕は、緩むどころか強くなって。
俺も。
気が付いたら、その背中に腕を回してた。
翔くんの胸の中
すっごく落ち着く…
こんなこと、しちゃいけないって。
頭ではわかってるのに、離れられなくて。
俺たちはしばらく、ただ抱き合ってお互いの体温を感じてた。
「…ごめん…お風呂、温くなっちゃうね…」
でも、やっぱり小さな罪悪感が胸をチクチク刺すのに耐えられなくて。
適当な言い訳をつけて、手を離す。
翔くんも、少し俯きがちに離れて。
「…先、寝てて良いから…」
目を合わせることなく、お風呂へと消えた。
俺は逃げるようにベッドルームへ戻ると、クローゼットにしまってあった客用の布団を勝手に取り出して、ベッドの下に敷いた。
それから、携帯を取り出し、潤にメールを打つ。
『今日は、もう寝るね。おやすみ』
しばらく画面を開いたままにしていたけど、既読は付かなくて。
仕方なく、携帯を枕元に置いた。
「…ホントに床で寝るんだ…」
不意に翔くんの声がして。
顔を上げると、スウェットのズボンだけ履いた翔くんが、ドアのとこに立ってる。
筋肉のついた引き締まった上半身が目に飛び込んできて。
心臓が、ドクンと跳ね上がった。
音が聞こえたんじゃないかって思うと恥ずかしくて。
慌てて視線を逸らす。
「う、うん…だってそう、ニノに約束したし。ごめん、勝手に布団、出しちゃった」
「いや…大丈夫…」
翔くんは首に掛けたタオルでガシガシと頭を拭きながら、俺の前を横切って。
ベッドの端に腰掛ける。
どことなく居心地の悪さを感じて、俯いて指先を弄ってると。
「…智くん…」
翔くんが、俺を呼んだ。