第9章 暁
【智】
「ありがとう、ニノ」
翔くんのマンションの下で車を停めてもらい、一緒に降りた。
「あのさ…いや、やっぱなんでもない」
ニノはなにか言いたげに口籠もって。
でも、結局なにも言わずに、硬い表情でキュッと唇を締めた。
「わかってる。大丈夫だから」
俺がそう言うと、なぜか切なげに瞳を揺らして。
でも、無理やり笑みを作る。
「うん。じゃあ、またね」
「ああ。ありがとう」
「ニノ、ありがとな」
別れの挨拶を交わし、翔くんを支えようとその背中に腕を回すと、翔くんの腕が肩に回ってきた。
その熱に、少し鼓動が早くなった。
そのまま、寄り添いながら鍵を開け、エントランスを潜ると、車が走り去る音が聞こえた。
無言のまま、エレベーターに乗り込み、翔くんの部屋にたどり着く。
ドアを開けると、翔くんの匂いがして。
また、鼓動が早くなった。
「お邪魔します…」
部屋に上がり、翔くんをソファに座らせる。
「なんか、飲む?」
訊ねると、小さく首を振った。
「じゃあ、お風呂入れてくるね」
そう言って、浴室へ向かった俺を、翔くんは黙って見てた。
浴槽にお湯を溜めながら、大きく息を吐き出す。
俺…なにやってんだろ…
潤にあんなこと言って
翔くんも、俺とは付き合わないってはっきり言って
それなのに
どうしても離れたくなくて
無理やり、付いてきちゃった
今、一緒にいたって
どうにもなんないのに…
「…智くん…」
不意に翔くんの声が耳に飛び込んできて。
ハッと我に返った。
浴槽のお湯はもう、いい感じで溜まってて。
入り口を振り向けば、翔くんが困った顔で立ってる。
「あ…ごめん!もう入れるよ!あ、それとも、お背中流しましょうか?なんつって…」
戯けながら、浴室を出て行こうとした腕を、強く掴まれて。
気が付いたら
温かい腕の中にいた