第9章 暁
思ってた以上に、緊張してたってことかな?
「ニノ…ため息…」
翔ちゃんが少し笑って言った。
「だってさ~、超緊張してたよ~!
もしかして、翔ちゃんと松潤が殴り合い始めたら、俺、止められんのかな~ってさ」
すると翔ちゃんは自嘲気味に笑って、
「殴り合いにはならないよ…殴られることはあってもね?俺が悪いんだ、甘んじて殴られるさ」
「翔ちゃん…」
大野さんが翔ちゃんに申し訳なさそうに俯いた。
ったくさ…お通夜じゃないんだから、
前向いていこうぜ!
一歩前進したんだもん。
大野さんをあそこから連れ出せたことは大きい。
「全くさ、こんなおじさんのどこがいいんだか?」
エレベーターの中、空気を変えようとしてふざけたのに、翔ちゃんったら、
「だよな~…でも、どうしても智くんがよかったんだ…ごめんな~、ニノ…」
……そんなこと言われちゃったら、もう何にも言えないじゃん、俺…
まあね。
分からないでもないよ?
この人、こう見えて凡人じゃないからね~
ダンスも歌もぴか一だし、
画を描かせても、字を書かせても、
俺たちには考えもつかない不思議な人形作ったり。
とにかく、人の前に出るようなことはないくせに、人を引き付ける不思議な魅力のある人…
翔ちゃんと松潤だけじゃなく、
俺も雅紀も、何となく一目も二目も置いている。
それが大野智という人…
「大野さん、家に送って行けばいい?」
車の後部座席に乗った大野さんにルームミラー越しに聞いた。すると、
「脚を怪我してる翔ちゃんほっとけないから…
翔ちゃんの家に、一緒に行くよ…」
「でも」
「ダメだよ、智くん」
俺とニノの言葉が被った。
「大丈夫、俺は床に寝てもいいから。
俺のせいでこんなになった翔ちゃん、ほっとくなんてできないよ」
……その目には、この人にしては珍しく、
強い力があって、俺たちは何も言い返せず…
結局、翔ちゃんのマンションに二人を下ろした。