第1章 風花
【翔】
こんな騙し討ちみたいなこと、ホントはダメなことくらい分かってるよ。
でも、この方法しか思い付かなかった。
じっと見下ろす相葉くんは、その綺麗な瞳に、はっきりと動揺の色を映している。
「…あ、あの、翔、ちゃん…」
しどろもどろの彼の唇を、人差し指でそっと押さえた。
「シーっ…ねえ、聞こえるよね、相葉くんの心臓の音…家に着いたときから、ずっと……」
…………今にも泣き出しそうな目をして、彼は俺のことを見つめている。
……いけるか?
失敗は許されない……
「ねえ、雅紀……俺に教えてくれなかなぁ……男が、イイっていうの…」
「…しょお、ちゃん…」
俺は畳み掛けるように続けた。
「一回だけでいいんだ…ニノには黙っていたら分かんないでしょ?
ふたりだけの、秘密、ってことにすれば…」
……さっきとは違う、明らかに迷っているその瞳に、俺は止めの言葉を繋ぐ。
「雅紀が欲しい…俺の全てを、雅紀に知って欲しい……」
「しょうちゃん…俺……」
はっきり拒絶しないってことは、
いいってこと、だよね?
俺はゆっくりと顔を近づけていき、
半開きの唇に俺のを重ねた。
その唇は、気の毒なほどに震えていて、
俺はその震えごと受け止めながら、啄むように何度も角度を変えてキスをした。