第1章 風花
「翔ちゃん、鍵、出して?」
やっぱり足元の覚束無い翔ちゃんの肩を抱いて、翔ちゃんの部屋の前まで来た。
「う…ん…」
俺の肩に凭れ掛かったまま、鞄の中をごそごそ漁ってるけど、なかなか出てこなくて。
「貸して?探すから」
「…ごめん…」
俺は鞄を受け取りながら、気付かれないようにそっとため息をついた。
まいったなぁ…
これじゃ、玄関でサヨナラって訳にもいかなそう。
結局、ニノにも連絡出来てないし…
どうしよう…
鍵を探し出してドアを開けると、翔ちゃんを抱えるようにして部屋の中へと足を踏み入れる。
「お邪魔しま~す」
そういや、翔ちゃんち来るの、初めてだぁ。
「翔ちゃん、ベッド、どこ?」
「そっち」
指差したドアの向こうは、リビングで。
想像では、すっごい散らかってると思ってた。
だって、楽屋とかでもすぐ散らかすし。
でも、確かに物は多いけど、整然と並べられてて。
もしかして、彼女が掃除とかしてんのかな…?
そんなことが、頭の片隅を過ぎっていった。
「ベッド、向こう…」
翔ちゃんが、リビングの奥のドアを指差す。
「あ、うん」
フラフラする翔ちゃんを支えながら、ベッドルームへ入る。
カーテンを閉め切った真っ暗な部屋に、でっかいベッド。
スイッチを押して電気を点け、翔ちゃんをベッドへ寝かせた。
顔色は、ちょっと赤いくらいでそんなに悪くない。
うん、これなら帰っても大丈夫そう。
「じゃあ、俺、帰るね?今日はゆっくり眠ってよ~」
そう言って、踵を返そうとした。
その時。
ぐいっと強い力で腕を引かれて。
「えっ…!?」
気が付いたら
眩しいくらいの蛍光灯を背に
翔ちゃんが俺を見下ろしていた
その瞳に
薄暗い影を落として