第9章 暁
【雅紀】
泣きそうに顔を歪めて、それでも必死に自分を保とうとするかのようにおーちゃんを睨みつける松潤と。
その視線を真っ正面から受け止めて、静かに包み込んでやろうとするかのようなおーちゃんと。
誰も入り込めそうになかった二人の間に流れる空気を、静かに切り裂いたのは。
翔ちゃんだった。
「ごめんな…俺のせいで…」
とても穏やかな声で。
でも、鋭いナイフの切っ先のような言葉で。
「でも…俺も、智くんが好きなんだ。この気持ちは、松潤にだって負けないと思う」
二人を、引き裂いた。
「翔くん、待って…!」
慌てた様子で、おーちゃんがニノを押し退けて翔ちゃんの腕を掴む。
松潤の目に、瞬時に激しい怒りが宿って。
腰を浮かしたのを、慌てて後ろから羽交い締めにした。
「ふざけんなよっ…!」
「松潤、だめっ…!」
物凄い力で翔ちゃんへ向かおうとする体を、必死に押し留める。
「落ち着いてっ…」
「これが、落ち着いていられるかよっ!智は、俺のもんだっ!泥棒猫みたいに、後から掻っ攫われてたまるかよっ!」
「松潤っ…!」
いくらなんだって、そんな言い方っ…!
「智くんは…モノじゃない。松潤の所有物でもない」
「ちょっと、翔ちゃん!やめろよ!」
さすがにニノもマズいと思ったらしく、翔ちゃんの口を慌てて塞ごうとしてる。
だけど、ニノとおーちゃんの手を振り払って、翔ちゃんはまっすぐに松潤を見つめた。
「でも…俺のものでもない。智くんは、智くんだ。誰のものでもないよ」
静かな、でも強い意志を宿した声が、響いて。
腕の中の松潤が、びくりと震えた。