第9章 暁
「あのさ、何か、飲み物でも…」
苦し紛れにそう言った俺の言葉は、
大野さんの強い意思を乗せたような言葉で搔き消された。
「勝手に出掛けてきちゃったけどさ、
潤がそうしたいっていうんなら、俺…
またあそこに戻ってもいいよ?」
「なっ///」
大野さんの発言に、松潤はもちろん、
俺たちは一斉に、大野さんの顔を見た。
穏やかに……
仏みたいに…仏じゃ変かな?
だったら、差し詰め観音様か菩薩様…
「潤とずっとあそこで暮らしてもいいんだ…
潤が望むなら、俺…」
「嘘だ!俺になんか…俺のことなんか、
もう好き…じゃない、くせに…」
言いながら、潤の顔は悲しみに歪む。
「好きだよ…今も…潤のこと…」
「嘘だ!!」
「嘘じゃないよ…ただ…」
「……」
「前と同じ気持ちでは…
同じ好きじゃ……なくなった…」
さっきまでの穏やかな顔に、
一瞬、切なげな影が浮かんだ。
また俯いて、唇を噛む松潤…
ほんとなら…
もっと好きなやつが出来たから、バイバイ…
恋愛なんてそんなもんじゃないかな?
もう会わない…
新しい恋に生きる恋人に、
どんなに未練があっても…
会わない時間がいずれ、その傷を癒してくれる。
でも……
俺たちは嵐だ。
その過去と現在が、この狭い中に共存してる。
嫌でも、顔を合わせなければならない…
こんな残酷なことって…ないよな…
「……俺を捨てて、翔くんと付き合うんだ…」
俯いて、搾りだすように言った松潤に、大野さんは
「付き合わないよ」
そうはっきり言った。
弾かれたように顔を上げ反論しようとする松潤より、僅か早く、大野さんが畳みかけるように言った。
「潤とはもう付き合えない…でも…
…潤がいいって、そう言ってくれるまでは…
俺は翔くんとも付き合わない」
「そんなこと………じゃあ、俺が一生許さなかったら…」
「一生翔くんとは付き合わないよ…」
………視線を絡ませ合う二人…
その時、
翔ちゃんが、初めて口を開いた。